超高感度撮影テクニック

ルーリン彗星のカラー動画撮影に挑む!

映像プロデューサー:竹本宗一郎(ZERO CORPORATION

今、天文ファンの間で注目されホットな話題となっている「ルーリン彗星」。近日点を通過し、地球に接近中のルーリン彗星が明るさを増している。

ルーリン彗星は、2007年に台湾のルーリン(鹿林)天文台の観測で発見された彗星だ。我々は早速、天体撮影用超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550a」をフィールドに持ち出し、ルーリン彗星のカラー動画撮影に挑んだ。

以前話題になったホームズ彗星の時に比べ、状況はずいぶん厳しい。
2月に入ってからのルーリン彗星は、およそ4等星台の明るさ。ホームズ彗星に比べてずっと暗く、大きさも小さいからだ。月齢の関係で、2月6日以降は月明かりに邪魔され、淡く輝く彗星の撮影には適さない状況が続く。

最接近前のルーリン彗星を撮影できる最後のタイミングを計っていた。
そして2009年2月5日早朝。天体撮影用超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550a」による接近中のルーリン彗星のカラー動画撮影に成功した。

晴れ間を求めて移動する

機材を満載したロケ車両で中央高速道路へ飛び乗り、晴れ間を求めて北上を開始。
この日の関東地方はあいにくの曇り空。甲府を通過し、長野県に入っても空は厚い雲に覆われたままだった。
月没時間は午前2時半過ぎ。撮影のタイミングはそこから天文薄明が始まるまでの僅かな時間しかない。準備を整えてオフィスを出発したのは22時を回っていたため、撮影場所を吟味している余裕はすでになかった。

午前1時を回った頃、ようやく西の空の雲の動きが速くなってきた。そこで撮影地を八ヶ岳周辺に絞り込むことにした。

ルーリン彗星用カラー動画撮影システム

標高が高くなるにつれ雲が薄くなり、隙間から星が顔をのぞかせるようになった。
撮影地に到着したのは午前2時前。あたりは数日前に降った雪で一面真っ白だった。気温はマイナス6度。早速撮影システムを組み立て撮影準備にとりかかる。

NC-R550a撮影システムイメージ今回の撮影のために、五藤光学製の中型赤道儀MX-Uに特製のマルチプレートを装着。
その上に、Canon製の放送用超望遠ズームレンズJ35e×15B IASDを取り付けたNC-R550aを搭載するという撮影システムを組んだ。

超高感度カラーテレビカメラとしては、NHKのHARPカメラや3本のI.Iチューブをつかったカメラが存在するが、それら撮像管をつかったカラーカメラはカメラの取扱いが非常にシビアで、撮影が開始できるまで様々な準備作業を伴う。
しかしEMCCDを搭載したNC-R550aは、電源を投入すればその瞬間から撮影を開始できる。このことは、実は非常に画期的なのだ。天文台での使用に向いているカラーテレビカメラとして注目されているのは、まさにこの部分がキモといえるだろう。

ルーリン彗星のカラー動画映像撮影に成功

午前3時を回った頃、幸運にもルーリン彗星があるてんびん座付近は快晴となった。
早速、超高感度カラー動画撮影を開始する。

望遠鏡をつかった撮影とは異なり、超望遠ズームレンズによるリアルタイムビデオ撮影では、天体の導入は非常に容易だ。目的の夜空付近にレンズを向けたら、あとはゆっくりとズームアップしていくだけ。超高感度カラーテレビカメラでは、肉眼よりもはるかに多くの星を映し出す。そのため形状に特徴のある星雲星団、彗星の類は、一目でそれと判断がつく。星図ももたずにルーリン彗星を撮影に来た我々でも、あっという間にルーリン彗星をモニターに映し出ことができるというわけだ。

モニターにあらわれたルーリン彗星は、淡いエメラルドグリーンの輝きを放っていた。
ホームズ彗星とは明らかに異なる、彗星らしい美しい光。そのグリーンのコマの中心には、集光した核の様子がはっきりと確認できた。
地球に最接近するのは、2009年2月24日。その前後は月明かりの影響がなく彗星の高度も高くなるため観測には最適だ。

最後に、撮影に成功したルーリン彗星のカラー動画映像をご覧いただこう。
世界的にも貴重な映像だ。NC-R550aを導入している各天文台や科学館でも随時ルーリン彗星の撮影に挑む予定だという。

ルーリン彗星のカラー動画映像(左のボタンをクリックすると再生します)
撮影:竹本宗一郎(ZERO Corporation)

著者プロフィール

竹本宗一郎(映像プロデューサー)

1968年東京生まれ。1991年大阪芸術大学芸術学部卒業。 東京吉祥寺の映像制作会社ZERO CORPORATION代表取締役。自然をフィールドにした様々な映像を制作。特に超高感度カメラによる天体撮影に精通し、CMや番組、科学館、博覧会など向けの映像を手がける。また月刊天文ガイド「ASTRONOMY VIDEO」連載のほか、「天体ビデオ撮影マニュアル」「天体ビデオ撮影入門」や「コンパクトデジタルカメラで野鳥を撮ろう!」などの著書も執筆。