超高感度撮影テクニック

青く輝く浜辺〜ウミホタルを撮る〜

映像プロデューサー:竹本宗一郎(ZERO CORPORATION

ウミホタルとは?

ネイチャー撮影用スーパー超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550n」を使って「ウミホタル」を撮影することになった。

ウミホタルは、カイミジンコの一種で、体長わずか2〜3ミリの二枚貝。見た目は、金魚やメダカのエサにもよく使われる水中プランクトン“ミジンコ”を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。夜行性のため日中は砂の中で生息し、夜になると捕食のため砂から這い出て活発に動きまわる。

しかしの最大の特徴は、なんといってもあのマリンブルーの光・・・。
ウミホタルは、外的な刺激を受けると体内から分泌液を放出し、それが海中の酸素と化学反応を起こすことで青い光を放つという。

海ほたる(ウミホタル)といえば、東京湾アクアラインのパーキングエリアの名称としてよく知られているが、実際にその目で見たことのある人は、一体どのくらいいるだろうか?
そういってしまうと天然記念物のような存在だと思ってしまいがちだが、実はどこの海にも生息するごくありふれた微小な甲殻類だ。肉食で食欲旺盛。魚の死骸なども食べてくれる海の掃除屋としての一面もある。生息には綺麗な水質環境が必要なため、ここ数年はエコや環境問題とリンクさせて紹介されることが多くなってきた。

瀬戸内海のウミホタル

どこの海にも生息するごくありふれた生物に過ぎないウミホタル。しかし今回は生体記録ではなく、幻想的に光を撮影するとなれば、適した場所は限られてくる。

なにをもって幻想的というかは人それぞれの判断だが、瀬戸内海に浮かぶとある島で見られるウミホタルは、その規模と美しさで他を圧倒する。今回はその海岸でロケを行うことになっていた。

人口わずか300人程の小さな島。これといった観光名所に恵まれているわけでもなく、静かで穏やかに時間が過ぎて行くありふれた漁村だ。
だがこの島を訪れる人は多い。その目的は、膨大な数のウミホタル。しかも他では決して見ることができないという幻想的なその光景を求めて、人々はその島にやってくるという。

浜辺でのハンドヘルド撮影

今回のTV番組ロケでは、ウミホタルのクローズアップだけではなく、漆黒の闇に包まれた砂浜がマリンブルーに輝く光景を映像化しようというものだった。
これまで写真による長時間露光撮影でしかとらえられなかったその光景をリアルタイムのカラー動画で撮影するという試みだ。そのため、ロケ隊は月明かりを避け、砂浜に干潟が現れる大潮の日を狙ってその島にやってきた。

砂浜を歩くと足跡がブルーに輝く・・・。その様子をとらえるため今回はネイチャー撮影用スーパー超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550n」をハンドヘルドで運用することにした。
NC-R550nは単体のカメラシステムのため、ハンドヘルドで運用する場合にはバッテリーと収録デッキ、音声収録用の機材は、いわゆる紐付きとなる。動きやすさを考慮してバッテリーはリュックサックに入れてカメラマンが背負い、収録デッキとマイク機材は音声スタッフが担当する体制をとった。肩に担ぐスタイルではないが、NC-R550nはフィールドスーツ上部のキャリーハンドルを使い、吊しスタイルによる自由なカメラワークが可能だ。

準備完了、あとは夕暮れを待つばかり。

青く光る浜辺

月明かりがなければその浜辺は驚くほど暗く、目を凝らさなければどこが水際なのかもわからないほどだ。日没直後、まだ辺りがうっすらと見えるうちは、ごくわずかなウミホタルしか見つけることができないが、それでも水際を歩くと強烈なマリンブルーの発光が現れ、スタッフたちを驚かした。

月齢3の細い月が西の空に沈むころ、状況は一変する。足で砂を軽く払うだけで、無数のウミホタルが青い光を放ち始めたのだ。最初は小さな点の輝きに過ぎないウミホタルだが、波で海水がかかると、まるでとろけるようにゆっくりと発光液が辺りに広がっていく。

砂浜を歩く地元ガイドの後をNC-R550nを手にローアングルで追いかける。
日中の撮影に使用するため持参したハイビジョンカメラHDW-750のゲインを上げて撮影を試みるが、もちろんノイズばかりで何も映らない。しかしNC-R550nでは、ウミホタルの光だけでなく、歩く足の動きや波の様子までとらえることができるのだ。地元ガイドも初めて見るその映像に興奮を隠しきれない様子。おもわずスタッフたちも自ら砂を蹴りながら水際を歩きはじめる。

あいにく時期がまだ早かったため、ピーク時に比べると圧倒的に規模が小さかったが、映像的にはなかなか幻想的な光景をとらえることができ、無事に特殊撮影の役目を果たすことができた。

その幻想的な光景は、ネイチャー撮影用スーパー超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550n」を使うことによって初めてお茶の間に届けることができるようになる。オンエア前なのでまだ撮影した映像をご紹介できないのが残念だが、番組放映後は多くの観光客がその場所を訪れるに違いない。正直なところ特別な場所なので教えたくないのだが・・・・(笑)。

著者プロフィール

竹本宗一郎(映像プロデューサー)

1968年東京生まれ。1991年大阪芸術大学芸術学部卒業。 東京吉祥寺の映像制作会社ZERO CORPORATION代表取締役。自然をフィールドにした様々な映像を制作。特に超高感度カメラによる天体撮影に精通し、CMや番組、科学館、博覧会など向けの映像を手がける。また月刊天文ガイド「ASTRONOMY VIDEO」連載のほか、「天体ビデオ撮影マニュアル」「天体ビデオ撮影入門」や「コンパクトデジタルカメラで野鳥を撮ろう!」などの著書も執筆。 業界では稀なナイトネイチャーカメラマンとして活躍中。

◇ このコンテンツは「スーパー超高感度カメラNC-R550aシリーズ」のウェブサイトに掲載されたものです。なおNC-R550aシリーズは2013年8月末を持ちまして販売を終了いたしました。