超高感度撮影テクニック

天体撮影用特殊フィルターが映し出すHαの世界

映像プロデューサー:竹本宗一郎(ZERO CORPORATION

天体撮影用超高感度カメラNC-R550aの最大の特徴は、なんといっても天体撮影専用のHAPモードの搭載だ。NC-R550aには、ND64、ノーマル(IRカット)、IR-pass、Hα-passと合計4種類のフィルターがターレットによってカメラ本体に内蔵され、メニューから切替え操作を行なうことができる。このうちHα-passフィルターを使用した天体撮影を「HAPモード」と呼んでいる。今回は、このHAPモードについてご紹介しよう。

天体撮影専用の特殊な干渉フィルター

天体撮影用超高感度カメラNC-R550a搭載用に専用設計されたHα-passフィルターは、380nm(ナノメートル)から700nmまでの可視域を90%以上の透過率で透過する。つまり天体撮影に必要なHα線(波長656.3nmの光)を最大限透過させ、なおかつ不要な紫外線や赤外線をカットする天体撮影専用の特殊な干渉フィルターだ。赤く輝く散光星雲は、天体写真の世界では、まさにフォトジェニック的存在。NC‐R550aは、Hα-passフィルターをカメラ本体に内蔵することで、HU領域の散光星雲が放つ赤い光をはっきりととらえることを可能にしたのだ。

HAPモードの威力

普段、私たちが使うホームビデオカメラには、レンズとデバイス(CCDやCMOS)との間に、IRカット(赤外カット)フィルターが装着されている。これは、不要な赤外線をIRカットフィルターによって遮断し、映像のカラーバランスが崩れないようにするためのものだ。同様にNC-R550aにもノーマルモードとしてIRカットフィルターが搭載されている。NC-R550aで天体を撮影する場合、基本的にはこのノーマルモード設定で撮影して構わない。適切なカラーバランスで夜空をリアルタイム撮影できるからだ。しかし、下の写真(※)を見ていただきたい(※わかりやすいように強調する画像処理を行なっている)。

北アメリカ星雲 ノーマルモードとHAPモードの比較画像

左上はノーマルモードで撮影したNGC7000北アメリカ星雲。そして右上はHAPモードで撮影した映像だ。ノーマルモードでは、北アメリカ星雲の存在はほとんどわからないが、HAPモードで撮影した映像には、はっきりと赤い北アメリカ大陸の形が浮かび上がっているのがおわかりいただけるだろう。このように、HAPモードをつかえばHU領域の散光星雲が放つ赤い光を鮮明にとらえることができるのだ。

一方、M31アンドロメダ銀河を撮影した場合はどうだろう。HAPモードで撮影した映像はカラーバランスが崩れるだけで、ノーマルモードでの撮影と比べ映り方にそれほど大幅な違いは無い。HAPモードでの撮影対象となるのは、どの天体でも良いというわけではないのだ。

M31 ノーマルモードとHAPモードの比較画像

これまでスチルによる天体写真でしか撮影が困難だったHU領域のディテール表現。これをビデオ映像で可能にしたNC‐R550aは、天体撮影用を謳うにふさわしい画期的なカメラといえるだろう。

著者プロフィール

竹本宗一郎(映像プロデューサー)

1968年東京生まれ。1991年大阪芸術大学芸術学部卒業。 東京吉祥寺の映像制作会社ZERO CORPORATION代表取締役。自然をフィールドにした様々な映像を制作。特に超高感度カメラによる天体撮影に精通し、CMや番組、科学館、博覧会など向けの映像を手がける。また月刊天文ガイド「ASTRONOMY VIDEO」連載のほか、「天体ビデオ撮影マニュアル」「天体ビデオ撮影入門」や「コンパクトデジタルカメラで野鳥を撮ろう!」などの著書も執筆。