アクタイオンは、賢者ケイローンに手ほどきを受けた狩りの名人で、愛犬メランポスと多くの猟犬たちを従えて、日々野山を駆け巡っていました。
そんなある日、アクタイオンは獲物の鹿を追ううち深い森に迷い込んでしまいます。
やがて日も落ち、頼みの綱の猟犬たちともはぐれ、すっかり途方にくれてしまうのですが、そんなとき、遠くでぼんやり光る明かりに気がつきました。アクタイオンは、そこに人がいるに違いないと信じ、明かりのもとに向かったのですが…
そこにいたのは人間ではなく、月と狩りの女神アルテミスとニンフたちだったのです!
しかも折り悪く(?)アルテミスは水浴びをしていたところでして…
アクタイオンはこともあろうに、この潔癖症の女神の裸を見てしまいました。
さて、裸を見られた女神はどうしたか。
悔しさと恥ずかしさで顔を赤らめたアルテミスは、泉の水をひとすくいアクタイオンに浴びせて、こう叫びました。
「女神の裸を見たと言いふらせるなら、言いふらすがいい!」
これは捨てゼリフではなく呪いの言葉。アクタイオンは、女神の言葉にたちまち一頭の鹿に変えられてしまったのです!
そしてそこに、はぐれた猟犬たちが次々と姿を現しました。
口封じなら記憶を消せばいいものを、アルテミスの残酷な仕打ちでした。鹿に姿を変えられたアクタイオンは、あろうことか、自分の猟犬たちにかみ殺されてしまったのです。
こうしてアクタイオンをかみ殺した猟犬たちは、そうとは知らず、帰らぬ主人を求めて森中を探し続けました。やがてこいぬ座になったメランポスは、天に上げられた今でも、目に涙を浮かべて主人の帰りを待っているのです。