美の女神アフロディーテはあるとき、プシュケーという人間の娘が自分よりも美しいという噂を聞きつけました。それが悔しいアフロディーテは、娘を苦しめようと、よからぬ事をたくらみます。息子エロスの矢を使って、プシュケーを実らない恋のとりこにしてしまおうと考えたのです。
母に頼まれたエロスは、プシュケーのもとを訪れ、恋の矢を放とうとしましたが、誤って、その矢で自分の手を傷つけてしまいました。エロスは恋の矢の魔法で、プシュケーに恋をしてしまったのです。
プシュケーは、あまりの美しさが災いして、三人姉妹の中で一人だけ結婚話がありませんでした。
心配した父が神託を仰ぐと、「花嫁衣裳を着せ、生け贄として怪物に差し出すように」とのお告げ。父は泣く泣くお告げに従い、プシュケーを岩山に置き去りにしてしまいました。
一人取り残されたプシュケーは、風に運ばれ、やがて谷間の宮殿にたどり着きました。
そこにはプシュケーのほかには誰もいないのですが、声だけがプシュケーを導き、願うことは何でもかなえてくれます。そして夜には闇にまぎれて、屋敷の主人がやってきました。
実はこの主人がエロスだったのです。プシュケーは、優しい夫(?)に愛され、とても幸せな毎日を送りました。
でも、その幸せは長くは続きませんでした。
エロスは、自分の姿は決して見てはいけないとプシュケーに強く言い渡していました。正体が知られたら、一緒にはいられないのです。しかしプシュケーには、自分の夫の姿が見たいという思いがつのります。
そしてあるとき、妹の幸せに嫉妬した姉たちにそそのかされ、ろうそくでエロスの姿を照らし出してしまったのです。
これに怒ったエロスは、プシュケーの前から姿を消してしまいました。
愛する人を失ったプシュケーは、エロスを探し、あちこちさまよいました。そして、こともあろうにアフロディーテに、エロスに会わせてくれるよう懇願したのです。しかし、元からの嫉妬に加えて息子をたぶらかした(?)娘の願いをアフロディーテが聞き入れるはずがありません。無理難題を押し付けて、プシュケーを虐め抜いたのです。
やがてプシュケーは力尽きて倒れてしまいました。
一方のエロスはといえば、一度は離れたものの、どうしてもプシュケーを忘れることはできませんでした。プシュケーを救い出し、神々の王ゼウスに二人の正式な結婚を願い出たのです。
こうして二人は結婚を認められ、盛大な結婚式を開いたということです。