オリオンは、海の神ポセイドンの血をひく美青年で、ギリシャ一の力持ち。狙った獲物は逃さない素晴らしい腕の狩人で、そればかりか、ポセイドンの力を受け継ぎ、海の上を自由に歩き回ることができました。
野を山を駆け巡るオリオンの雄姿は、あるとき、月と狩りの女神アルテミスの目にとまりました。二人はたちまち恋に落ちたのです。それ以来オリオンとアルテミスは、片時も離れず行動を共にするようになりました。
しかし、二人の仲を快く思わない者がいました。太陽の神アポロンです。アルテミスの兄であるアポロンが、処女神である妹と人間の血もひくオリオンの恋を許すはずがありません。アポロンは幾度となくアルテミスを説き伏せようとしましたが、アルテミスは耳を貸そうともしないのです。
そんなある日のこと、アポロンはアルテミスを海岸に呼び出しました。そして、海の彼方に見える小さな点を指差し、こう言ったのです。
「アルテミスよ、人間などと遊んでばかりで、狩りの腕も相当落ちたことだろう。今のお前に、あの小さなものを射落とすことなどできまい」
「(まあ、お兄さまったら、見ていらっしゃい!)」
それを聞いたアルテミスは、持っていた弓をつがえると、勢いよく矢を放ちました。狩りの女神アルテミスが、的を外すはずがありません。その小さな点は波間に消えてしまいました。
ところが翌日、海岸に打ち上げられたのは、アルテミスの矢に射抜かれたオリオンだったのです。アポロンは、海の上を散歩しているオリオンを見つけ、アルテミス自身に射させたのでした。
自分の愛する人を殺してしまったアルテミスの悲しみは、たとえようもありません。
この一部始終を見ていた神々の王ゼウスは、アルテミスを不憫に思い、オリオンを天に上げ星座にしました。それ以来アルテミスは、銀色の月の馬車に乗り、愛するオリオンに会うため夜空を巡っているのです。